福音

2015年04月09日 23:44
君のひと声で
頭の中は余計なことばかり
文豪の恋文のように
お菓子に見立てた君を
ぺろりと食べれば
天罰下るよ
 
頭の上から君が笑う
「背伸びしておいで
くちびるはここよ」
 
君が急にきれいになったと
世間ではもっぱらの噂さ
心なしか からだまで突然
大人っぽくなってきたので
わたしはなんだか 父親の気持ちで
目を逸らすふりをしては
日ごと君の成長を
息を潜めて窃(ぬす)み見ている
 
君は空気を 水を 感情を 出会った人を
言葉を 音を 細菌を 
靴を 精液を ガソリンを わたしを 
触れた全てを栄養にして
ものすごい早さで育つ
世界中のありとあらゆるものに根を張り
化け物のように育つ
髪は1日で肩まで伸びて
身長も既に わたしを追い越した
その成長は誰も止められない
 
だけどひとつだけ そんな顔は 
誰にも見せちゃいけない
うっとりした君は あぁ なんて
気を失ってるみたいに きれいだ
まるで胸を射抜かれた 蝶の剥製
 
セロファンみたいな羽根から
愛の粉はこぼれ 
この部屋に燦々と降り
わたしの瞳を、鼻腔を、喉を、心の隅を、
全ての空虚を やがて
隙間なく詰まらせてく
 
わたしと君の肌のすきまに
入り込み つなぎとめる
 
ひとつだ わたしたちは
もうどこへも行かせないよ
 
そして君は
うっとりと宙を見つめ 
何も言わなくなった