雨待ちの少女

2015年09月05日 20:49
隣の老夫婦の
お嬢さんは こんなにいい天気なのに
お家から出ないのねぇ と笑う声がするが
大きなお世話だ
 
 
わたしの大切な人は
雨が降るとやってきて
雨上がりと共に
去っていくのだった
 
 
弾丸のように黒光りし
甲冑を着込んだ虫が
部屋の隅でこちらを睨む
 
 
わたしは小説を書く合間に
猫をあやし
コーヒーを淹れ
桃を剥いて食べたり
 
 
虫よ、わたしは
君を潰したりなどしない
 
 
もうどのくらい経ったのか
人の言葉には 興味がなくなってからは
そうねわたしは
本当に欲しいものは
口に出せないたちなの
 
 
わたしは半生を ドブ川に捨てた
今日があなたの誕生日よと
母親は泣いて わたしに詫びた
 
 
わたしは雨を待つ
そんな天気が続けば
この世界はあなたを
苦しみから解放するでしょう ね
 
 
わたしは雨期を待つ
心だけは
シェルブールの少女のように
傘を広げ 踊るけれど
 
 
部屋の隅の虫は
寸分の隙も見せず
武装しこちらを睨む
 
 
まるで 昨日までの
わたしにそっくりだった
 
 
あの人は来ない
だけど ただ 雨を待つ