つながってるみたいな気になって

2015年03月15日 22:50
あなたにとって
これは何度目の恋なのかな
わたしはすでに数えるのも億劫だ
 
あなたの羊たちは
あなたを残してみんな死んでいった
ふわふわの毛皮と、
共に過ごした楽しい時間と
愛しさという財産を残して
 
わたしの初めてのボーイフレンドは
わたしが17の時に
交通事故で死んだ
首がおかしな方向に歪んでいて
わたしはそれからしばらく
食事をしても吐いてしまって
 
久しぶりの恋だというのに
窓辺でぼんやりと外を眺めて
詩集を読む時間が
今 一番のお気に入り
最初はあんなに楽しかった
ソーシャル・ネットワークを
ぱったりと全てやめてしまった
大して仲の良くない学生時代の同級生が
UPしたディナーの写真やセルフィーで
わたしのタイムラインは
途端に埋め尽くされて
17の夏みたいに
嘔吐しそうになってしまうので
あなたとの「交際中」のステータスも
あっさりと棄ててしまった
 
わたしはある時気付いたのだ
すべてはソーシャル内での価値であり
処理された電子信号の一つだということに。
世界中と繋がった気になって
実はとても小さな世界に
集約されていたのだ
 
唯一続けている
Skypeの画面の向こうで
あなたは嫌いなウヰスキーを
あおりながら
「まずい!」と笑ったあと、
だけど、ぼくたちも
これを作った夫婦のようになりたいものだね
と 恥ずかしそうにつぶやいた
 
 
そうね。
 
 
だけど、
あなたの
本当の名前はまだ、知らない
 
そしてわたしも
わたしの名前は明かさない。
 
わたしたちには、
名前など必要なかった。
 
電子信号で
わたしたちは
恋愛ができる。
それはまるで一つの物語で
フィクションのようだ。
触れ合うことはなく
平行線だ。
 
わたしたちは
空想で肉欲を補う
知恵を持て余し、
欠除した距離や時間を
空想という、愛情と憎悪が混ざった粘着質なパテで
隙間なく埋めていくのだ
 
お決まりの、おやすみのあいさつもプラトニックで
絡まない指先を触れ合わせて
ディスプレイにくちびるを這わす
 
今日も、びり、と静電気が走る
乾いたキスだった
 
わたしはどこかの国の工場で生産された後
日本に出荷され、Amazonで選ばれ、
自宅に配送された画面を毎日愛しく見つめ、
くちびるを押し付け恍惚とする日々を過ごしている
少しめずらしいような、どこにでもいる人間だ。
 
「じゃあ また明日ね」と
さよならをして回線をOFFにすると
わたしは途端に何事もなかったかのように
日常というカテゴリに
乱暴に放り込まれる
そうして何事もなかったかのように
明日も出勤して先週の残務処理をして
昼になれば同僚とたいしておいしくもないランチを食べに行って
新橋から乗車し、ラッシュに巻き込まれて
誰もいないマンションへの帰路を辿り
帰宅して、お気に入りのバスソルトを入れて入浴したのちに
PCを起動しあなたと会話をしてというループを
こうしてずっとずっとずっとずっと繰り返して、
1日ずつわたしは
静かに静かに 死に近づいていく
永遠にも感じられる時間を、
わたしも繰り返して
 
あなたの羊たちが死んでいくのを
静かに見送ったのと同じように
わたしも、
永遠にも感じられる時間を繰り返して
 
 
あなたが死んだらわたしに誰かが
連絡をくれるだろうか
わたしが死んだら誰かがあなたに
連絡するのだろうか
 
 
長い長い38年目の冬が終わろうとしている
家族も、上司も、友人も、
もう誰もわたしに
恋人をつくれよと
からかわなくなった