ジオメトリー

2015年01月29日 21:45
例えばこんなところで
背中を押すのは
ルール違反だ
 
 
線路に散らばった
ポーチの中身 
白線の後ろで 
悲鳴あげる群衆
助けることもせずに
僕は黙って
鼻血が止まらない君を見てた
その怯えた目と
僕の目が直線上に重なり
ざまぁみろ と笑った後
一粒涙をこぼした
 
 
遠い国で僕たちは
一度だけ手をつないだ
それがとても
楽しかったね
白い屋根 市場
青い海  レモン畑
ブルネットの長い髪に
白いサンドレス
君がよく似合う街だ
なんだか新婚のようだった
 
 
僕たちには
並んだベッドのうち
ひとつは 必要なかった
名前を呼びあうことは
なかったけれど
ひとつだけで 事足りたのだ
吸えないくせに 眠りにつく前
煙草を一本、君はいつもねだった
 
 
君は姉さんのように
よく世話を焼いてくれた
よく笑ってよく泣くところは
子どもを持ったことはないが
娘のようでもあり
こまっしゃくれていて
全く腹がたつ女だった
いったい 君という存在は
なんだったんだろうと
今になって思うよ
 
 
まだ若くて
他の男を知らない
柔らかい君のお腹に 乳房に 喉に
無数のウィルスが巣食って
腐って死んでしまえばいいなんて
あの頃はよく思っていた
 
 
僕はルールを破った
僕は約束を破った
君の足元を飾る
ピンヒールが宙を舞って
裸足の君が随分と下に
横たわった
逃げ惑う人々
泣き崩れる女性
駆け寄る駅員
ホームはパニックさ
犯人探しをしている
背を向けて駆け出す僕も
もうじき捕まるだろう
 
 
眠るように
優しい顔だ
聖女のように
いままで見た
どんな芸術より
美しかった
 
 
一つずつ
忘れていくよ
1日ずつ 1時間ずつ 1分ずつ
大丈夫 こわくなんてないよ
忘れるということは
恐怖なんかじゃない
僕のことは全部忘れてしまう
 
今度目覚める頃には何も
覚えていないはずだよ
約束はできないけど
目覚める頃には
君は真っ白に還るはずだよ
 
 
いいね?
静かにおやすみ
 
いいね?一人でも
君は眠れるね