浴室情夜

2016年05月30日 20:25
海のないこの街で
わたしは人魚を飼う
浴槽に水を張ると
ぱしゃぱしゃと無邪気に
尾ひれを動かし
おねえさん、とても気持ちいいの と
屈託のない笑顔を見せる
少女の半身
膨らみかけた乳房
血管が透ける腕
宝石のようにきらめく鱗
時々静かに 一粒が剥がれては
浴槽の底に
ゆらゆらと沈む
 
人魚はどこで覚えてきたのか
随分と きざなせりふを
時々わたしに投げかける
おねえさんの瞳は
お星様のようだわ  とか 
なんてかわいい人 とか
この世界で一番愛しているの、などと言って
わたしの肩をそっと抱く
まるで こまっしゃくれた
人間の少女だ
 
わたしはつい人魚に
意地悪をしたい気持ちになり
二匹の鯉(こい)を浴槽に放った
ほら、あなたのお友達よ、と
 
お魚さんたち とっても元気ね
と初めは喜んでいたが
二匹たちが 人魚の
飴玉のような乳首に吸い付き
荒縄のように ざらざらとした体を
その柔肌に擦り付けるものだから
次第に顔を歪ませ、息を荒げて
おねえさん!おねえさん!と喚く
 
心臓が跳ねるように
水音が響き
わたしは人魚の頬が
ほんのりと赤く染まっていく様子を
何も言わずに 絵に描いていた
泣きそうに騒ぐのもかまわず
何も言わずに 絵に描いていた
 
少女の半身と
魚の尾ひれ
わたしのかわいい恋人
 
 
海のない街での出来事