お寿司だよ

2014年04月27日 23:13

帰りの電車の中
こんな会話を聞いた。


「俺がこの間寿司を食べた時さ、」
「へぇ。どこの回転寿司ですか?」
「あ!俺回転寿司は食べないの。
握ってもらったやつじゃないと食わないの。分かる?

一気に四万くらい使うけどね。あのね。回転寿司は食わないんだよ。」


iPhoneをいじるふりで
わたしはその話を聞く。
40歳を過ぎたであろう
ほうれい線のはっきりした
くたびれた顔をしている
その中年男性は
ホスト風の髪型に、
派手なスーツを着て
大声で威張っている。
もう一人の男性は
いかにも普通のサラリーマンといった感じで
にこにこと、
穏やかにその話を聞いている。
わたしは思う。
回転寿司のくだりで
語気を急に強めた彼が
守りたいものってなんなんだろう。
家族だろうか。友達だろうか。
自分だろうか。恋人だろうか。
ももクロちゃんのDVDだろうか。
特徴的なその髪型だろうか。
スーツだろうか。自宅アパートだろうか。思い出だろうか。
むしろそれらの、彼を構築する全ての
アイデンティティだろうか。
わけが分からなくて、息ができなくなる。


倒れてもがくわたしを、乗客たちが

ゴミ屑でも見るかのように冷たく見ていた。


車掌さんがわたしを支えて

次の駅で降ろして、構内に座らせてくれた。


回るお寿司でも
結構おいしいとおもうんだけどって、
思いながら意識が遠のいていく。



あなたと二度と会うことはないと思うんだけど
とりあえずあなたは
回転寿司は食べないんですね。


うん。わかりました。